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いのうえまさきのメルヘン童話
『ありがとうの王さま』


ありがとうの王さま


作:いのうえまさき
読み聞かせ対象:小学生1年生以上

◆あらすじ
世の中が便利になり、人が疎遠になっていることに気付いた王様は、人の縁を取り戻すべく試行錯誤をする。国民は振り回されるが、ありがとうという感謝の気持ちやおもいやりを持つことは大切だったというお話し。

◆解説(注意事項)…失敗をすると、追求されて責められる世知辛い現実はありますが、失敗はだれもがし、学びをえます。王様たる者が失敗していいかどうかを考えつつ、改善する方向に目を向けるお話しです。思いやりがあったことき気づき、感謝を忘れないことは大切であることを考えましょう。あまのじゃくに解釈すると、なんでもありがとうを言えば済むのかと思う方もいるかもしれませんが、実際に「ありがとう」と人から言われると素直な気持ちを感じます。言う側になることからはじめましょう。




「ありがとうの王さま」
作 いのうえまさき


◆1◆

王さまは さいきん おもっていた
世の中は べんりに なってきた
 
なんだか べんりになってきたけれど
なんだか 毎日がつまらなくなってきた

かんたんなことは 自動的にできる
ひとりで できても しっぱいしても
なにもいわれない

みんながあつまって わっはっはって
大声で笑うのは 楽しいのに
さいきんは わっはっはって
笑った?

ブオオ
ブオオ

朝がきた
めざめの つの笛が なりひびいた

うるさいなあ だれかがつぶやいた
時計があるから つの笛はいらないよ

つの笛はいらないって!
王さまはびっくりした どうしてこうなったんだろう

そうだ! こうしよう
時計をつかったらだめ!
王さまは さっそく おふれをだした

王さま!なんて不便なことをしたんですか
国のたくさんの人は とまどっていましたが
やがて なじんだ
それでもいいと 思ったから

みんなは つの笛でめざめるようになり
ねぼうしている人は おきている人が
おこしてやった

王さまは うまくいったと思った




◆2◆

王さまは さいきん おもっていた
世の中は べんりに なってきた
 
なんでもできるようになったけれど
つまらなくなってきたぞ
べんりじゃないほうが よいこともある

とくに ひとりぼっちは だめ
ひとりぼっちになるものって
なにがあるだろう?

ブリブリブリ
ブリブリブリ


トイレはひとりだね

そうだ! こうしよう
トイレはつかったらだめ!
王さまは さっそく おふれをだした

王さま!なんて不便なことをしたんですか

トイレは1つだけ 王さまの家にある
みんなは王さまのところへ来て ならんだ
トイレの長い列ができた

列はとても長かったので
長いこと待った となりの人と 話がはずんだ
知らない人とも ともだちになった
うんちをがまん しながら

本を読んでいる人もいる

うんちが もれちゃった!
とても長い列 とうとうもらした
しかし うんちをみんなでそうじして
たすけあった

トイレはやっぱり あったほうがいい
くさいし ばいきんだらけ

不便って そういうこと!
これはしっぱい
王さまは トイレはつかってよいと おふれをだした

みんな ほっとした
そしてみんな わっはっはと 笑った
みんなでそうじを したことや
なかよしの ともだちが できたことで
わっはっはと みんな笑った
王さまも ごめんごめんと いってから
おかしくて 笑った


◆3◆

王さまは さいきん おもっていた
世の中は べんりに なってきた

とおくへ はやく行けるようになったけれど
とおくへ いそいで いかなくちゃならない

びゅうん
びゅうん
いそいそと あわただしい

ともだちや かぞくが 旅にでた
いつまでたっても 帰ってこない
いったい どこへ?

王さまの きまぐれが でるぞ

そうだ! こうしよう
車や列車 ひこうきをつかったらだめ!
王さまは さっそく おふれをだした

王さま!なんてことを 国がはってんしませんよ!
しかし王さまは こういった
国は じゅうぶん へいわです
あわてなくて いい

せっかちな人は とまどっていましたが
やがて みんな なじんで のんびりした
せっかちな人は あわてて のんびりした

いそいそとすれば ぶつかる
このくらいでよい
王さまは ほっとした


◆4◆

王さまは さいきん おもっていた
世の中は べんりに なってきた

まだまだ 不便なことは あるの?

たいへんよ!

だれかが そういいながら やってきた
どうしたの?

おせわに なった人へ
ありがとうを いいわすれちゃった

どこの人か わからない
いいわすれて もうつたえられない

王さま どうしよう?

どどん
どどん

王さまはびっくりした どうしてこうなったんだろう

世の中 べんりになったのに
ありがとうを いいわすれるなんて

ありがとうを いいたい

そうだ! こうしよう
ありがとうは 3人に いうこと

そうしたら
ありがとうが どんどん ふえて
ありがとうに あふれる

いいわすれても いつかつたわるね
王さまは さっそく おふれをだした

王さま! なんてめんどうなことを!
そういう人もいました
しかし王さまは こういった
きめたことは やってみよう

国のたくさんの人は とまどっていましたが
やがて なじんだ

だんだんと ありがとうは ふえた

めんどうと いっていた人も
うれしかったので ありがとうを言った

おとうさん おかあさんへ ありがとう
おともだちへ ありがとう
王さまへ ありがとう

王さまの家に 長い列ができた
たくさんの人が ありがとうを いいにきた

これはたいへん!
王さまは たくさんの ありがとうをされた




◆5◆

この国は ありがとうに あふれているね
こんなことした 王さまは だれ?

そんなことを きく人がいた
しかし 王さまの なまえを しっている人は
いなかった

王さま? この国に 王さまなんていないよ
だれかが そういった

そう
この国には 王さまなんて
さいしょから いなかったのです

だれかが やってみようと
いったことを
みんなは やってみたのです

いろいろなことを やって
わかったことは たくさん

こまかいことや あたりまえのこと
たくさんわかって わっはっはと
笑った

そうですか
それならば この国のひと みんなが
ありがとうの王さまですね

おわり 




◆その他





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